中部デザイン協会 デザインの仕事場におじゃまします

第6回 工業デザイナー 丹羽宏暁氏

デザイナーの仕事といっても様々ですが、その重要な部分の一つにプレゼンテーションがあります。プレゼンテーションの出来・不出来で、その提案が採用になるか不採用になるかに大きく影響する場合があります。これはデザイナーにとっては最も神経を使うところでもあります。 いろいろなジャンルのデザイナーが、独自のスタイルで表現したプレゼンテーションにはその内容もさることながら、表現そのものに見とれてしまう事もしばしばです。
今回はそんないろいろなジャンルの中でも、レンダリング(完成予想図)というスケッチを得意とする工業デザイナーの丹羽宏暁さんの事務所を訪ねてお話を伺いました。

感じる心

あいちゃん:はじめに丹羽さんがデザインの世界に入られたキッカケからお話いただけますか。

丹羽さん:学生の頃先生の作品を見て大変刺激を受けて感動したことがありました。それは円筒形の小型ラジオのモデルでした。上部にスピーカーが付いていて回りがダイヤルという、実に機能的なデザインでした。今では古典と言われそうですが、当時の私にとっては大変画期的な物に感じられました。ラジオの概念を根本からくつがえした発想に思えたのです。それがキッカケで工業デザインの世界にのめりこんでいきました。

あいちゃん:同じようにモデルを見ても感じる心が有るか無いかでその後の考え方や生き方にも大きく影響するものですね。丹羽さんて少年時代はそんな感性の持ち主だったんだ。

自動車の世界

あいちゃん:丹羽さんが社会人としてスタートしたのはあのトヨタ自動車でしたよね。自動車産業は当時から花形産業と聞いていますが、社会人としてのスタートはいかがでしたか。

丹羽さん:初めてトヨタのデザインルームを見学した時は先輩の仕事を見てそのすごさに心がときめき、これがプロの世界だと感動ました。そして俺もあんなふうになるんだという反面なれるかなという不安もありました。私がトヨタに入社した1970年代は、日本は工業化社会の真っ只中で成長をつずけている時代でした。その時代のトヨタですから今とは違ったすごいものが有ったと思います。

あいちゃん:入社後の仕事はいかがでしたか。

丹羽さん:自分の仕事で自信が持てたのは初代のパブリカという車のバンに初めて私の案が採用されたときです。それからも多くの仕事を手掛けました。

あいちゃん:その後、最も人気があったマークIIのデザインも手掛けられたそうですね。日本の車社会に大きな実績を残されたわけですね。

自分のライフスタイル

あいちゃん:しかしそんな実績をつくった会社をどうして退社されたのですか。

丹羽さん:デザイナーの多くが感じていることと思いますが、自由な発想をしたい時にいろいろな条件で仕事をすることにしばしば抵抗を感じることが有ります。自分のスタイルが確立してくればくるほどその気持ちは強くなってきます。そんな時会社という組織に属している者にとって、その組織を上手く使う人と自分の新しい環境を作りたいと思う人の二つのタイプに分かれます。私は後者の方でした。何か自動車以外の世界も経験したいという思いも有って思い切って独立することにしたのです。

あいちゃん:独立後のお仕事はどんな事をされたのですか。

丹羽さん:出身が自動車ということで、現在までその関連企業の仕事がメインになっていますが、いろいろな業界を経験してきました。仕事の中身も決められた条件に従って行うだけではなく、こちらから新たに提案するという内容が主体になっています。

超々小型化

あいちゃん:ところで、話は変わりますが、これからのデザインの世界はどうなるとお考えですか。

丹羽さん:デザインの世界を含めた全ての世界にコンピューターが入り込んでくることになりますが、それも超小型な、現在を基準にすれば超々小型といえるかもしれません。メガネやペンに今のデスクトップ型パソコン以上の性能が内臓されるでしょうし、我々人間の体内にも自然な臓器のように取り付けることが可能になるかもしれません。いずれにしても全ての操作がシンプルになり、物の世界よりバーチャルな世界が重要になっていくと思われます。当然デザインの世界も今以上にシンプルでスピードアップすると思いますし、デザインのジャンル分けということが意味をなさなくなると思います。ある意味で私たちの時代と次の時代のバトンタッチということかもしれません。

プロの表現

あいちゃん:デザイナーの提案には必ずスケッチやパースが付き物ですが、丹羽さんはレンダリングの職人といわれる腕をお持ちだと聞いてまいりました。現在まで手掛けられた作品の数々を拝見してさすがにプロの表現技術とはこういうものかと魅せられました。

丹羽さん:スケッチやレンダリングの表現力が必要なのはデザインをする以前の事で、コンセプトやアイデアを素早く表現できることはデザイナーにとって必須でしょう。そんな訳で若い頃必死で覚えました。しかし、デザイン力が無ければ絶対にスケッチやレンダリングは良く見えません。昨今ではコンピューターによる表現も多くなってきましたが、根本に手で表現できる能力があればコンピューターを使っても結果に違いが出るはずです。私は手による表現の温かさが好きなんです。これからもこのスタイルは続けていこうと思っています。また、今後機会があれば未来をデザインした個展が開ければと考えています。

 

出会いを大切に

あいちゃん:学生時代から現在に至るまでいろいろな人との一つ一つの出会いを大切にしてこられたということですが。

丹羽さん:今日に至るまでいろいろな人に出会い多くの刺激や影響を受けてきました。そして多くのことを感じてきました。私は人と出会うことが自分の成長の糧になっていると考えています。そしてこれからもその気持ちを大切にしていきたいと思っています。

あいちゃん:拝見させていただいた作品には丹羽さんの温かい人柄が表現されているように感じました。


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